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ICCで優勝したハイヤールーが選んだ、先進的なストックオプションの設計とは --KIQS導入事例--

  • 株式会社ハイヤールー
  • 代表取締役
  • 葛岡 宏祐

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ICCで優勝したハイヤールーが選んだ、先進的なストックオプションの設計とは  --KIQS導入事例--

2023年2月の「ICCサミット FUKUOKA 2023」にて開催された「SaaS RISING STAR CATAPULT」で優勝を果たした株式会社ハイヤールー。注目を集めている同社が提供しているサービスが、エンジニア採用のミスマッチを防ぐコーディング試験サービス「HireRoo」です。

HireRooはどのようにして生み出されたのか、同社におけるストックオプション(SO)への考え方、「KIQS」を導入するまでの経緯や、実際に利用した感想など、代表の葛岡宏祐さんにお話をうかがいました。

葛岡 宏祐 
株式会社ハイヤールー 代表取締役
1996年生まれ、京都府出身。バックパッカーとして世界一周を経験後、感じた課題を解くべく、独学でiOSのアプリを開発、3か月後にAminGoという旅行アプリをリリース。その後渋谷のベンチャー企業、DeNA、メルカリを経て2020年12月に株式会社ハイヤールーを創業。

エンジニアリング力の向上につながるサービスを目指して「HireRoo」を起業

──事業について、これまでの経緯や現状など教えてください。

葛岡さん:2020年12月、エンジニアを採用する際の課題を解決するため、SPIのような定量的に技術力をはかれるサービスを提供することを目的に事業を立ち上げました。それが、コーディング試験サービス「HireRoo」です。

採用の現場において「エンジニアの技術力がわからない」という声をよく聞きますが、Big Techが実施しているコーディング試験のようなものを受けてもらうことで、勘ではなく根拠にもとづいて採用できます。現在はコーディングテストのみですが、最終的には社内人材の評価や母集団の形成なども含めて課題を解決し、エンジニア力の向上につなげていけるようなサービスを目指しています。

──コーディングテストはスクリーニングか見極めか、どんな使われ方が多いですか?

葛岡さん:大きな会社ではスクリーニング、小さい会社ではミスマッチを防ぐ目的で使われることが多いです。小さい会社の場合、最初はトライアル入社でなんとかなりますが、人数が増えてくると対応しきれなくなります。そこで、スケールするソリューションとして、HireRooを導入いただくケースが少なくありません。

ICC優勝後、投資家とのコミュニケーションや社内の雰囲気に変化

──事業は順調に伸びているんですね?

葛岡さん:今のところは順調です。スタートアップにありがちなHard Thingsも、あまり経験していません。これから起きるのかもしれませんけどね。ここ1年で100社ほどにご利用いただき、売上は毎月20%成長、年間で見ると9倍ほどの成長率になっています。

──「ICCサミット FUKUOKA 2023  SaaS RISING STAR CATAPULT」で優勝して何か変わりましたか?

葛岡さん:投資家とのコミュニケーションが変わりました。積極的に採用も行っているのですが、スカウトへの返信率も上がっています。そのため、「HireRooってイケるんだ」という雰囲気が生まれて、社内の雰囲気も良くなりました。

エンジニアにもっと投資すべきという思いから起業。将来的にプロダクトレッドグロースでも海外で勝負

──HireRoo創業のきっかけは何だったのでしょうか?

葛岡さん:前職であるメルカリ入社前、外資系企業への入社も目指して転職活動していました。その時、日本と海外とで採用方法に大きな違いがあることを感じました。そこで、日本も海外と同じくらいエンジニアに投資すべきだと思いました。

その後、メルカリ在籍中に仲間とプロダクトを作って起業したわけですが、資金調達ができてリリースの目処が立ったところで、メルカリを退職しました。投資を受けたのはプライマルキャピタルとコーラルキャピタル、デライトベンチャーズ、そして個人投資家です。

個人投資家は、メルカリ共同創業者の富島寛(通称:tommy)さんです。起業メンバーはプロダクトドリブンな動きをしてしまいがちなので、tommyさん含め複数の投資家に事業案をぶつけて相談していました。

起業自体は、ずいぶん前から考えていました。メルカリの前はDeNAに在籍していましたが、そのころからでしょうか。僕自身、少し変わったキャリアを歩んでいるので、社会人として生活していくイメージはあまりなかったです。それから、良いアイデアが浮かんだことも起業につながっています。ただ、以前は起業のためのスキルや知見が足りていなかったので、DeNAやメルカリで勉強しようと思いました。

──HireRooの社員数はどれくらいですか?

葛岡さん:共同創業者3名と後から入った7名で、現在は10名です。そのうちエンジニアは8名で、残り2名がBizdevからカスタマーサクセスまでビジネスサイドを担当しています。年末に資金調達する予定なので、それまでに15~16名程度にしたいですね。長期的に見ると、2~3年で30〜40名ほどを目指しています。

──どんな会社を目指していますか?

葛岡さん:日本からエンジニア起業家が生まれてほしいと思っています。セールスドリブンだと、なかなか日本から国境を超えるプロダクトが生まれません。私たちは年末からグローバルに本気でチャレンジしますが、プロダクトレッドグロースでも海外で勝負できるというところを証明したいです。

1年目の事業が波に乗り始めたタイミングで初めてSOを発行

──KIQSを利用したSO発行について、詳しくうかがえますか?

葛岡さん:共同創業者には創業時に生株を渡していて、比率は私が60%、ほか2名が25%と15%を保有しています。今回事業が波に乗り始めたタイミングで、初めてSOを発行しました。シリーズAが年末なので、それまでに整えておきたいという背景です。現在は月によって収支プラスになるくらい、資金には多少の余裕があるタイミングになっています。

KIQSというひな型のある状態で始められたので、手続きはとても楽でした。メルカリ時代の同僚に紹介いただいた弁護士に依頼したのですが、資金に余裕はあるとはいえ費用はそれなりにかかります。そういう面でも、ひな形があると助かりますね。契約書のどの点を議論すればよいのかはKIQSの公式サイトで解説されていますから、学習コストも低くて済みました。

SO要件は「Vestingは4年で毎年25%」「退職時の持ち出しはなし」「M&Aでの行使OK」

──SOの要件はどうやって決めましたか?

葛岡さん:まず、Vestingについては4年で毎年25%起算日は「入社日」にしました。これはあまり議論はなく、KIQSの推奨案をそのまま適応した形です。関係者で話し合って「これでいいよね」となりました。

──退職時の持ち出しの件についてはいかがですか?

葛岡さん:「持ち出してほしい」という思いはありましたが、管理コストがかかるため、今回は持ち出せない設計にしました。また、PMFするまでは事業が変わったり人が入れ替わったりする可能性もあります。現状は「合わなければ辞めてもらって構わない」というスタンスなので、メンバーが安定してから持ち出せるようにしたいと思っています。

また、今後ほかのストックオプション制度を入れた時には、同じ人に複数回、条件の異なるものを付与していこうと考えています。

1年目は給与を下げて入社してくれた社員が多かったので、そのことへの感謝の意味を込め、我々なりの還元をさせてくださいということで、今回の対象は役員を除いた全員、割合は一律にしました。今後、評価制度ができれば、割合はそれに応じて変えていくかもしれません。

──M&Aでも行使できるようにしましたか?

葛岡さん:はい、M&Aでも行使できるようにしています。コーラルキャピタルに相談した際、「M&Aでの行使にはデメリットが少ないので、絶対にやった方がいい」と背中を押してもらいました。

M&A自体、Exitの方法としてそんなに悪い選択ではありませんし、もちろんIPO以外の選択肢も持っておきたいですが、その時に行使できずメンバーへの感謝すらできなくなるのは困ります。税制適格SOの保管委託要件(M&A時に税制適格を維持したままSOを行使するのが難しくなっている要因)など、税制に関する法律も変わっていくだろうという見通しです。

──そのほか、独自に付け加えたことはありますか?

葛岡さん:とくにありません。KIQSを理解していればSOを理解できているという環境を作った方がいいので、あまりテンプレートから変えていないです。

──従業員のリアクションはいかがでしたか?

葛岡さん:KIQSのリリース前から、SOを発行する思いなどはメッセージとして伝えていました。「みんな同じ船に乗っているのだから、当事者意識を持って、利害を一致させて取り組んでいきたい」と。その後にちょうどKIQSがリリースされ、従業員にとってもメリットが大きいので、「これでいこう!」と決まりました。

──SO導入の効果は?

葛岡さん:現在は既存メンバーのコミュニケーションがメインですが、今後は採用に向けたオファーの際に武器として活用していけそうです。個社ごとのSOを理解するのは大変ですが、KIQSが共通認識になれば、そんなことは必要なくなります。おそらく今後、KIQSを理解している候補者は増えていくでしょう。その時のオファーで、「うちのSOはKIQSです」と言えればいいですね。

「SOのリテラシーが低い人でも、KIQSは理解している」という状態になれば、SOは本当に武器になる

──KIQSへのリクエストは?

葛岡さん:会社の公用語は英語ですが、グローバル展開を目指すうえで、やはり海外でも適用できるようなひな型になるとうれしいですね。運用は難しいですが、米国の税制適格要件を満たした契約書もあったら便利だと思います。

また、時間の問題かと思いますが、「SOのリテラシーが低い人でも、KIQSは理解している」という状態になるといいですよね。スタートアップ界隈をうろうろしている人が増えるのも、めっちゃいいなと思います。リテラシーを上げるコンテンツが充実するのもよさそうです。

経営者側には「同じ船に乗っている」という思いがあってメッセージを伝えても、従業員からは「給料を増やしてくれ」なんて言われがちです。採用面談の際にも、「給料がもっとも大事で、SOはいらない」なんて言う人もいます。これはSOがどうなるか描けていないため、その重要性が理解できていないからだと思うんです。

結局、「会社を辞めたらSOはもらえなくなる」という認識が強いからかもしれませんが、そこがもっとなくなって、KIQSの良さが伝わったらいいですね。「あそこの会社はKIQSを使っていて、さらにM&Aの時も行使できる」とか、そこをもっと理解してもらえるようになったら、SOも本当に武器として使えると思います。

──従業員の方にはSOの重要性をどのように伝えているのですか?

葛岡さん:弊社では、シミュレーターとかもしていますが、重要性を感じてもらうためには、付与してもらう人だけじゃなくて、経営者側の認識を変えるコンテンツみたいなものもあったらいいなと思います。

従業員への思いを一生懸命伝えている経営者がいる一方で、SOを「年収1,500万円の市場価値がある人を、半額の750万円で採用できる切符」のように思っている経営者もいます。そこを悪用されると、どれだけ理解してもらってもSOの価値が上がっていきません。経営者側のマインドも同時に変えていかなければいけないと思います。

(撮影:岡戸 雅樹)

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