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「日本のスタートアップには夢が足りない」YOUTRUSTが‘従業員ファーストなストックオプション’にこだわる理由

  • 株式会社YOUTRUST
  • 代表取締役CEO
  • 岩崎由夏

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「日本のスタートアップには夢が足りない」YOUTRUSTが‘従業員ファーストなストックオプション’にこだわる理由

友人や同僚と仕事の話を楽しみながら仕事を探せるキャリアSNS・YOUTRUST(ユートラスト)。運営元である株式会社YOUTRUSTは、創業当初からストックオプション(以下、SO)を“従業員目線の設計”にすることにこだわってきました。本記事では同社の代表である岩崎 由夏さんに、その詳細をインタビュー。設計の経緯や背景にある想い、起業のきっかけなどを伺いました。

岩崎 由夏(いわさき・ゆか)株式会社YOUTRUST 代表取締役CEO
大阪大学理学部卒業後、2012年ディー・エヌ・エーに新卒入社。新卒、中途の採用を担当。2016年子会社ペロリに出向し経営企画を担当。2017年YOUTRUSTを設立。2018年4月にスタートした副業・転職のキャリアSNS「YOUTRUST」の利用ユーザーは累計17万人を超える。


小林 賢治(こばやし・けんじ)Nstock アドバイザー/シニフィアン株式会社 共同代表
兵庫県出身。2009年に株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、執行役員HR本部長として採用改革、人事制度改革に従事。その後、経営企画本部長としてコーポレート部門全体を統括。2011年から2015年まで同社取締役を務める。2017年7月にシニフィアン株式会社を設立、共同代表を務める。2019年6月、上場前段階に差し掛かるレイターステージのスタートアップを主たる支援対象とする総額200億円のグロースファンド「THE FUND」を設立。2022年10月よりNstockに参画し、アドバイザーとして支援。

「転職活動って面倒くさい」が起業のきっかけに

小林 賢治(以下、小林):今日はよろしくお願いします。私がDeNAを卒業してからもちょくちょく会ってはいましたが、実際に会うのは久しぶりですね。岩崎さんが起業するって相談してくれた時、とっても嬉しかったことをよく覚えています。実際に会社設立したのはいつでしたっけ?

岩崎 由夏(以下、岩崎):ご無沙汰してます!設立したのは2017年の年末です。その日は法務局の年内最後の開庁日だったので、今でもよく覚えています。私は新卒でDeNAに入社してから人事、経営企画を経験して、その後は当時キュレーションプラットフォーム・MERYを運営していた子会社のペロリ社に出向したんです。そして、またDeNAに戻ってきたときに転職を考えはじめた感じでしたね。

小林:最初から「起業しよう」と思ってたわけじゃなかったんですね!

岩崎:そうなんです。ペロリではいろんな経験をさせてもらいましたし、何よりスタートアップの雰囲気が本当に楽しかったんです。だから「またあの時みたいにスタートアップで思いっきり仕事がしたい!」と、転職するつもりでいろいろな企業を見て回ってて。でも、転職活動がとにかく面倒くさかったんですよね。

スタートアップってどんな会社があってどこがイケてるかとか、全然分からなかったし、人づてで探してたりもしたけど、それも面倒くさくて。お風呂で「ラクに転職する方法はないんか……」と悶々と考えてた記憶があります(笑)。そんなときに、お世話になっていた綾太郎さん(ペロリ社の元代表・中川 綾太郎さん)とご飯に行って相談したら、「そういうときに起業ってするんだよ〜」って言われて。それで「なるほどな〜」と起業を考えるようになりましたね。

小林:そこからはすぐに起業に振り切れたんですか?

岩崎:いや、3ヶ月くらいは「私が本当に起業なんてすんの……?!」って考えてましたよ。あと、ちょうどその頃ですよね!共同創業者との契約のこととか分からないことだらけで、小林さんに連絡したの。当時はもう、毎日が手探りでした。

リリース初日に登録者700人達成。サービスに希望が見えた瞬間

小林:改めてですが、読者のみなさまに向けてYOUTRUSTのサービス内容を教えてもらえますか?

岩崎:YOUTRUSTは一言でいうと、日本の人材の流動性を上げるキャリアSNSです。友達とつながってプロフィールを埋めるだけで、スタートアップ企業などから転職・副業のスカウトが届くという仕組みになっています。ただ、今だからそう胸を張って言えますが、創業当時はこんなに具体的には考えられていませんでしたね。

小林:今や、私が投資しているスタートアップでもYOUTRUSTを使うようになったので、とても感慨深いですね。サービスを立ち上げる原体験みたいなものって、あったんですか?

岩崎:私、転職活動をしているときに「うちの会社に来ない?」って社外の人に誘ってほしかったんですよ!でも、現職の人に見られたらどうしよう……とか考えると、SNSに「転職するので声掛けてください!」とは書きづらいじゃないですか。それが根源的なペインでした。なんとか社外の人だけに転職意欲を伝える方法はないかって考えていたことが、原点ですね。それで、今のプロダクトの原型を作りはじめて。

小林:なるほど、自身のリアルな悩みからスタートしたんですね!そこからプロダクトはどうやって広まっていったんですか?

岩崎:最初はβ版のつもりで、自分でプログラミングを学んで、実際に手を動かしてプロダクトを作っていたんです。当時、誰に相談しても「転職意欲をオープンになんてするわけない」って言われてたから、それを検証したくて。具体的には、転職意欲を「転職したい・興味がある・今はない」の3段階で設定できるようにして、一番上の「転職したい」をオープンに設定する人がいるのかを見てみたいと思っていました。でもそもそも、登録してくれる人なんているのか?って不安もあったのですが、いざリリースしてみたら、なんと初日にして700人もの登録があって!もう、びっくりでしたね。これが2018年4月のことでした。

小林:リリース初日に700人!?そんなに登録があったんだ!すごい!

岩崎:そうなんです!しかも、目的だった検証結果としても、全登録者の12%が一番上の「転職したい」に設定していて。真ん中の「興味がある」も50%くらいはいたかな。その時に「いけるじゃん〜〜〜! 」って希望が見えました(笑)。

小林:(笑)!ビジネスモデルは当初から見えていたんですか?

岩崎:いや、全然決まってなかったですね。でも、ずっと人事をやっていたので「人さえ集まっていれば人事はお金を払う」っていう確信はありました。だから、リリースして、求職者の数が想像以上に集まってからは、急いで採用企業を集めるための営業をはじめましたね。

そこから時間が経って、2023年7月時点でいうと累計16万人の方が登録をしてくださっています。最近ではこれまでにはいなかった層、たとえば大企業の社員さんなどからの登録もあったりして、ますます面白くなってきていますね。

小林:16万人とはすごい!やっぱり副業の利用が多いんですか?

岩崎:そうですね。もちろん正社員採用の流動性もとても上がってきているのですが、やっぱり副業はYOUTRUSTの強みの1つだと思っています。副業の求人情報や求職者がしっかりプールされている場所って少ないんですよね。ユニットエコノミクスは大きくはないけど、そのぶんライバルも少ない。この市場に注力できているからこそ、派生して幅広い登録者の方が増えてきているのかなと感じます。

全社員を対象に退職しても失効しない‘ポータブルSO’を発行。

小林:ここからはYOUTRUST社のSOについて聞かせてください。まず、どのくらいの時期から付与をはじめてましたか?

岩崎:創業当初からです。それこそ1人目の社員から税制適格SOを出してました。半年に1回、4月と10月に付与するので、たとえば1月入社の人であれば次の4月が付与タイミングになります。その他、プールを15%にしたり、退職後も持ち出せる「ポータブルな」SOにしたり、上場してからのロックアップ(行使できない一定の期間)がなかったりと、いろいろ工夫しています。

小林:なるほど、かなり広く配ってるんですね!付与する株式の数は、人によって変わる感じですか?

岩崎:職位(グレード)に応じて変わります。だいたい今回はn%出しましょう、って決めて、その時に所属している人たちの人数×グレードで按分するイメージですね。また、創業初期から在籍してくれている社歴が長い人ほど付与パーセンテージが大きく、行使価格の安いSOが付与される仕組みになっています。

小林:わかりやすい!ストックオプションって、えてして設計側が凝りすぎてしまって逆にもらう側からするとわかりづらいってことがよく起こっちゃうんですよね。その点YOUTRUSTのSOは シンプルかつフラットな設計でいいですね。

岩崎:わかりやすくすることはとても意識していました。管理方法も、今はめっちゃシンプルなスプレッドシートのみです(笑)。SOは「社員が人生を投じてくれたことに対するリターン」だと思っているので、全社員がちゃんとメリットを理解できて、旨味を実感してもらえると嬉しいですね。

小林:いいですね。それにしても、出だしから15%発行っていう企業はなかなかめずらしいですよね。

岩崎:そうなんですかね。シード期の株主がすごく起業家フレンドリーで「発行割合を増やしてもいいんだよ〜」って言ってくれてたことが大きかったですね。それをいいことに、しれーっと15%で契約を出したら通りました(笑)

小林:創業時から入ってるVCの顔ぶれをみるに、「うっかり見逃した」なんてことはなく、SOの意義を理解した上で15%の条件をOKしているように思えました。岩崎さんは、SOの知識は創業時から持っていましたか?

岩崎:いや、知識なんて全然ありませんでした。実際、今ではポータブルSOになっていますが、第4回目の付与タイミングくらいまでは退職時で失効してしまう内容になってたんですよ。NstockのKIQSも当時はありませんでしたから(笑)!  

当然のように、法律で「退職したら失効」って決まっているもんだと思っていたんですが、でもいざ弁護士に聞いてみたらできるって言うじゃないですか。「できるんかーい」ってなって。それですぐに変えましたね。でもこれって私だけじゃないと思っていて、創業者って最初は本当に何も知らずに「SOって世の中で一般的な雛形から変えられないもんだ」と思っているケースが多い気がします。知識がないせいで、慣習をルールだと思って従ってしまう。当時は、私も疑ってなかったですからね。

小林:同じ経験をしている創業者はきっと多いですね。その他、SOの設計について何か気をつけたことはありますか?

岩崎:SOを設計するときに、「退職時にも持ち出せるポータブルSOにするのはイヤだ!」っていう経営者もいるじゃないですか。私も気持ちはとても共感できて。でもそれって、入って一瞬で辞めるみたいな極端なフリーライドを気にしてるんだと思うんですよね。なので、それを防ぐために、YOUTRUSTでは2年で20%、5年で50%のSOを権利確定できるようにしています。今のところ、私としてはこれがフリーライドを防ぎつつ従業員の見返りを多くする一番いいバランスだと思っていますね。

日本のスタートアップは、まだまだ従業員にとって夢がない

小林:今、どういう想いをもってスタートアップをやっていますか?

岩崎:私は「従業員がちゃんと待遇に夢を持てること」を大事にしたい、とずっと思ってるんです。人材の流動性を上げるには、スタートアップがもっと盛り上がらないといけない。スタートアップで大成功した人を増やして、それに憧れる人がいて……と関係人口が増えていかなきゃいけないんですよね。

でも、今の日本のスタートアップの従業員って、あんまり夢がないと思うんです。SOでいえば、転職したら紙くずになっちゃうケースがまだまだあったり、スモールIPOが増えていることで行使売却できても大した金額にならなかったり。結局、日本では創業者ばかりが“億り人”になっていますよね。

小林:それは僕もとても共感しますね。アメリカの創業者の上場時の平均保有株式は20%を切るぐらいだけど、日本では50%ぐらいあるんですよね。逆に、SOの配布総量については、アメリカは日本の倍ぐらいあるので、上場で生み出される富が従業員にも幅広く配分されていて。

岩崎:そうなんですよ。ここは変わっていかないとダメですよね。その点でも、特にポータブルSOは大事だと思います。「私、こっちの企業のSOもあっちの企業のSOも持ってるよ!」みたいな人がたくさん生まれてきたら、めっちゃ夢があるじゃないですか(笑)。そういう夢に引き寄せられてスタートアップの関係人口が増えていけば、従業員フレンドリーな報酬設計をしている企業にちゃんと人が集まるようになる。そうすればきっと、これまで創業者に偏りがちだったリターンが、しっかり社員にも分配されていくと思います。

あと私は、「辞めていった人にSOを持っていてもらったほうがいい」とすら思っているかもしれません。社外に仲間がいるって、強いじゃないですか。社会は人間の集合体から成り立っていて、その人間たちの感情の集合体がお金に変わっていくんですよね。そう考えると、辞めた人にもSOを持っててもらって、変わらずに応援し続けてもらえるほうが嬉しいなって。「社外の人に好かれていること」はとても大事にしたいと思っています。

小林:それはYOUTRUSTのとても素敵な考え方ですね。でも一方で、自分の取り分が減るのがイヤだなって気持ちはないんですか?

岩崎:私、自分の待遇には本当にこだわりがなくて。それより一緒に仕事をしてくれているみんなと一緒にがんばって、一緒に報われたいっていう気持ちのほうが強いかもしれません。とにかく従業員目線で、夢のある報酬設計にしたいです。だからSOプールは出だしから15%だし、スモールIPOなんて絶対にしたくないですし。

でも、最近は社員から「頼むから自分自身の報酬を上げてくれ」って言われたりもしますね(笑)。経営者がちゃんともらってないと夢がないから、自分たちのためにも年収の上限を引き上げてくれ〜!って。

小林:(笑)。たしかに社長の生活がカツカツだと、意思決定が窮屈になりますもんね。会社が成功する前から経営者が過度に贅沢になる必要はないにしても、腰を据えて長期目線で経営できるぐらいの経済的余裕は必要ですよね。

岩崎:そうですね!なので私も、この点はちゃんと考えていかなきゃいけないなと思い直しましたね。

小林:ちなみに、社員の皆さんにはSOの詳しい内容はちゃんと伝わってそうですか?

岩崎:うーん、その難易度はかなり高いですね(笑)。半年に1回の付与タイミングで説明はしていますが、100%理解するのって難しいんじゃないかなとも思います。私だって自分が会社員だったとき、SOのことなんて全然知らなかったですしね。新株予約権ってなんなん?! みたいな

小林:(笑)。実際に社員の皆さんは、SOを行使した場合の金額シミュレーションはしていそうですか?

岩崎:あまりいないかもしれないですね。冗談でこっちから「もしユニコーンになれたら……って計算してみて!」とか言ったりはするけど、YOUTRUSTの社員はあまり報酬のために働いている、って感じではないかもしれません。裏表がない内容だからわかりやすくていい、とはたまに言われたりしますけどね。ここはこれから、社員にとって良いモチベーションにつながるように工夫していきたいですね。

さいごに

小林:YOUTRUSTのSO設計は、岩崎さんの経営や社員に対する想いと非常に一貫している内容になっているんだな〜なと実感しました。

岩崎:ありがとうございます。とにかく、スタートアップをもっと盛り上げたいですね。日本ではまだ商社など大手企業の給与水準のほうが、スタートアップより高かったりするじゃないですか。結局そのままじゃ良い人材が集まってこないし、スタートアップは盛り上がらず、私たちが掲げる「人材の流動性を上げる」を達成できません。「経済的にもスタートアップってめっちゃいいよね」っていうのが常識になるように、これからもがんばっていきたいです。

小林:本日はありがとうございました。相談に乗ったときはまだ2人だったYOUTRUSTが、立派になっていてとても嬉しかったです(笑)!

岩崎:こちらこそです。またぜひ相談に乗ってくださいね!

小林:ところで、この新しいオフィスめっちゃ素敵ですね!結構お金かけたんじゃないですか?

岩崎:いや〜、ケチケチでやってますよ。テーブルは貰いものですし、床だってむき出しのまんまですからね。意外とオシャレじゃない?!って(笑)。小林さんと同じく、この辺は関西人の血が流れてますので、うまくやってます(笑)。

(制作協力:株式会社Tokyo Edit/撮影:高木 成和)

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