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「メルカリでやり残した大きな宿題」を解くため、Nstockに入社した

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「メルカリでやり残した大きな宿題」を解くため、Nstockに入社した

『株式報酬と金融で、スタートアップのエコシステムを強くする』と掲げるNstock。Nstockでドメインエキスパートとして活躍するのが、メルカリを経てNstockに入社した野瀬さん( @azaz_climbs )。自身を「おそらくスタートアップ業界で一番ストックオプションに苦労した人」と表する野瀬さんがNstockに入社した理由を語ります。

最初のキャリアは経営コンサルと国際税務

――まず、野瀬さんのご経歴について教えてください。

大阪生まれ大阪育ちです。地元の高校を卒業後、米国に渡りました。母方の家系にシリコンバレーに移住した親族が多かったので、そのツテで。シリコンバレーのど真ん中のCupertinoという街でしばらく英語を学んで、そのあとUCLAに移って経済学部を卒業しました。

米国にいたのは2005年から2009年くらいですが、まさにFacebook、Twitter、InstagramなどのSNS勃興期でしたね。就活時はまだリーマンショックの余波が残っていたこともあり、米国には残らず日本に戻りました。20代は経営コンサルや国際税務のコンサルをやっていました。

メルカリに転職、その後「株チーム」を結成

30歳になり、事業会社でのキャリアを考え始めました。カリフォルニアでの経験からスタートアップに漠然とした憧れがあり、どうせなら日本発のスタートアップがいいなと。引っ越しが重なってちょうど実家で断捨離をしているときに何となくメルカリを使ったんです。プロダクトやそのあと調べた会社のミッションにビビっときて、その日のうちに履歴書を送りました。

メルカリに入社したのは2016年春で、「コーポレート担当」というざっくりしたロールで入りました。当時はちょうど海外事業に力を入れ出した頃で、米国・英国子会社の経営管理サポート、前職でやっていた国際税務関係、赴任者の出向手続きや給与計算なんかもやっていました。ストックオプションも数ある業務の1つとして担当することになったんです。運命を変える株式報酬との出会いですね(笑)。

まったく知識はなかったのですが、オプションプールの管理から株主総会・取締役会での発行手続き、権利行使から株式売却までのオペレーション構築、社員への説明会、税務調査対応……あとは、IPO準備が始まればIの部の作成まで全部よろしく、という雑な感じで投げられました。

その後、組織拡大に伴ってチーム内でも分業が進み、経理・税務・労務といった分かりやすいロールの担当者は増えたのですが、株式報酬だけはずっと採用に苦労しました。転職マーケットに株式報酬の設計からオペレーションまでの経験をがっつり積んだ人がいないんですね。コンサルとして設計だけやった人、とか、役員数名にストックオプションを配ったことがあります、とかその程度で。

メルカリほど積極的にストックオプションを使ってきた会社が当時日本になかったので、当たり前といえば当たり前なのですが。それで、外部からの採用は途中で諦めて社内の関係部署から人を集めてチームを作りました。数字に強い経理、給与計算ができる労務、海外対応を任せられる英語のネイティブスピーカー、と色んなバックグラウンドのメンバーが集まってくれ、"Incentive & Equity Planning team”、通称「株チーム」ができました。上場前後の一番忙しいときで8名くらいのメンバーがいたと思います。

スタートアップドリームの裏で、ダンボールの底が抜ける

――メルカリでのストックオプションの設計やオペレーションはどのように行っていたのでしょうか?


メルカリ創業者である進太郎さんは海外経験もあるシリアルアントレプレナーなので、ご自身の経験からも、ストックオプションの活用には非常に積極的でした。

社員のモチベーションを上げる、リテンションを効かせる、採用時の切り札とする…など色んな場面・目的で使われていました。進太郎さんが社員に向けて発していたメッセージに「成功の果実をみんなで分け合いたい」というのがあって、上場前は全社員にストックオプションを渡していました。

その果実をもとにシリコンバレーのような起業のエコシステムが国内でも育っていけば嬉しい、とも言っていて、卒業した人が起業したり投資したりしているのを見ると、まさにそのとおりになっているなと思います。ちなみに、上場時のストックオプション比率は当時としては異例の約20%でした。十分な量の果実が社員に還元されたことになりますね。

このメルカリのストックオプションの話は、色んな媒体にスタートアップドリームとして取り上げられました。メルカリから億万長者がXX人!社員全員でキャピタルゲインがXX億円!のように。計40回近い発行回数も注目されました。

さぞかし裏方の設計やオペレーションも超一級に洗練されて…と思われてなのか、上場後は多くのスタートアップの方からストックオプションの相談を受けました。でも残念ながら、設計もオペレーションも試行錯誤と反省の繰り返しで、洗練とは程遠いものだったと言わざるをえません。

オペレーション部隊は、「ストックオプション発行っ!」の号令がかかる度にプリンターの前を陣取り、数千枚の紙を印刷してはペタペタと印鑑を押し、それを持って国内の他拠点や米国・英国に飛び、説明会をしてサインをもらい、重いスーツケースを引きずって東京に帰ってくる、みたいな(笑)。

効率なんて程遠く、人海戦術で何とかしのいでいる状態でした。上場時点でのストックオプションの権利者数は700名くらいだったと記憶していますが、定期的に付与していたので延べ人数は2,500人くらいになっていたはずです。上場審査のときにすべての契約書の提出を求められ、数箱のダンボールに詰めたらリアルに底が抜けた、なんてこともありました。

オペレーションの負荷だけではなく、設計の難易度もどんどん上がりました。日本での税制適格ストックオプションに加え、米国・英国の現地社員にはそれぞれの国で税制適格要件を満たすストックオプションを付与し、さらに間をまたいで居住地国が変わる赴任者には2ヶ国以上で同要件を満たすストックオプションを…という感じです。

大手の会計事務所にコンサルをお願いしても「前例もないし、そんなの無理ですよ」と一刀両断されたこともありました。海外向けのストックオプションはとにかく税務が複雑で、すべてのトラップを事前に見つけ出すのがめちゃめちゃ難しいんです。「もっとああすればよかった」という反省が尽きない日々でした。

――そのなかでも特に大変だった点について聞かせて下さい。

設計、オペレーション、リテラシーの3つの切り口でお話しますね。

設計面「ノウハウがどこにもない。もっとよくできた……」

まず設計ですが、一番困ったのがストックオプションの設計に関するベストプラクティスや活用ノウハウがどこにも落ちてなかったことです。法律や会計に関するピンポイントな質問は専門家に聞けば教えてくれますが、社員のエンゲージメント向上や採用の武器に繋がるような「より良い報酬」にするためのtipsがどこにもなかった。米国の事例を調べたり、ビックテックから転職してきた同僚に契約書を見せてもらったり、地道に情報を集めていました。でも日米ではそもそも適用される法律が異なるので、良いなと思っても日本では使えなかったり…。

ほかにも、最近「退職しても持ち出せるストックオプション」について議論が活発ですが、メルカリのストックオプションはそうなっていないんですね。当時その情報があれば、経営陣に違った提案ができたのかな?とは正直思います。会社に貢献したのに、放棄して辞めていった人たちの顔もたくさん浮かびますね。

オペレーション面「エクセルの見すぎで、頭上にSOの個数が見える」

次にオペレーションの話ですが、ここはとにかく紙・印鑑・FAXが前提となっているのが悩みの種でした。株式実務は社内だけでは完結せず、外部の株主名簿管理人や証券会社とのやり取りが不可欠なのですが、その連携がとても大変なんです。

例えば、ある書類を印刷して印鑑を押す→PDFを取ってメールに添付して送る(しかも件名指定)→同じものをFAXする→「FAXしましたよ」と電話する→最後に原本を郵送する、こんなオペレーションが普通に存在します(笑)。エンジニアの方が聞いたらひっくり返りそうですよね。

あとは、すべての書類や手続きのベースとなるストックオプションの「マスターデータ」をエクセルで管理していたのも大きなペインでした。センシティブな情報なので限られた人でチェックせざるをえない上、絶対に間違えてはいけないというプレッシャーがすごかったです。行使や退職者が出る度に数値が変わり、それが原簿、登記簿、有価証券報告書、法定調書…と色んな書類に転記されるので、常に正しい数値を管理しておくのが難しいんです。

私はあまりに同じエクセルを見続けたせいで、オフィス内で社員とすれ違うとその人のストックオプションの個数が頭上に見えるほどでした。「今の人、なんで2,000個のストックオプションを行使しないんだろう。あとでDMしよ」とかそんなレベルです。ちなみに、そのエクセルシートはあまりに巨大で複雑な関数が使われていたため、チーム内では忌み嫌われて「悪魔のシート」という名前で呼ばれていました(笑)。

リテラシー面「DM対応でチームもイライラ……SOの価値も伝わらず」

最後にリテラシーの話です。ストックオプションを発行する度に説明会をやるのですが、社員によって知識量や温度感に差がありすぎて、コミュニケーションを取るのがとても難しかったです。通常の株式売買の経験もない人が多い中、いきなりストックオプションやら税制適格やらの話をするので、無理もないのですが。

残念だったのは、「よく分からないですが、サインはしときます」という人が一定数いたこと。単なる手続きだけではなく、経営陣の想いやどれくらい価値があるものかを伝えるところまでが事務局の役割ですが、この点は及第点を取れたのか自信がありません。

さらに大変だったのは、いざ行使ができるタイミングになってそうした社員からの問い合わせが殺到したことです。「行使価格はいくらですか?」や「何個持っているか教えて欲しい」みたいな「今それ!?」みたいな問い合わせがめちゃめちゃ増えました。しかも内容はセンシティブなものが多いので、DMで対応せざるをえず、効率が悪かったですね…。チームのメンバーもみんなイライラしていました。でも伝えられていないのは事務局のせいでもあるので、1つずつ対応するしかなかったんです。「離婚する前に行使した方がいいですか?」のようなDMじゃなきゃ困るような問い合わせもありましたが。

こんな感じで設計面、オペレーション面、リテラシー面すべてにおいて課題があり、日々試行錯誤を重ねていました。でも残念ながら抜本的な解決には至らず、永遠に終わらない大きな宿題として取り組んでいる感じでした。

メルカリでの経験をスタートアップ業界に還元するためNstockへ

――そんな野瀬さんがなぜNstockにジョインしたのか、経緯を教えてください。

2021年の春から長期休暇を取っていました。いわゆるキャリアブレイクというやつです。私の趣味がクライミングと登山なのですが、前々からある海外の山を狙っていて、そのトレーニングや準備をしていたんです。ところが思ったよりコロナ禍が長引いて全然海外に行ける雰囲気ではなく…。

一旦復職するか次のキャリアを考えようかなというとき、宮田さんの「新会社『Nstock』を設立しました!」のツイートが流れてきたんです。

「株式報酬に特化したSaaSを開発する」とか「ストックオプションの非合理を解消する」って書いてあって、勝手に自分の仕事が降ってきた!と思いました(笑)。ほかの人に変なものを作られちゃたまらんので、ツイートから数時間後に宮田さんにDMしました。すぐに返事をもらって、翌週にはスマートHRのオフィスでランチをして、2月上旬から副業としてジョインすることになりました。

当時はまだ宮田さんとPMの高橋さんしかいなかったので、よく三人でプロダクトのブレストをやったのですが、びっくりしたのは二人とも全然ストックオプションのことを知らなかったこと。ストックオプションのテストを受けたらメルカリ社員の方が高い点数を取れそうだなと思ったくらい(笑)。

二人ともニコニコしながら「わかりません!」と声を揃えるので、これはたくさん仕事がありそうだなと楽しみになりました。あ、今ではお二人ともめちゃめちゃ詳しいですよ。宮田さんなんて国会議員の先生の前でストックオプションについてプレゼンするくらいなので。

副業として続けるか、正社員として入るかは少し悩みました。でも前段でお話した「メルカリでやり残した大きな宿題」を解くには、Nstockしかないと思いました。設計やオペレーションやリテラシーの問題をNstockで解決することが、メルカリでの経験を一番スケールさせてスタートアップ業界に還元できる方法ではないかと。

メルカリは辞めてもメルカリの宿題には間接的に関わっていけますしね。プロダクトができたら真っ先に営業にいこうと思ってます(笑)。

Nstockではどんな仕事をやっているのか?

――Nstockでは実際にどのような役割を担っているのでしょうか?

職種的にはドメインエキスパートになります。職種や役職にこだわりはなく、Nstockのミッション達成のためなら何でもやるつもりです。

直近だと、大きく3つの仕事をしています。

1つ目はメインのSaaSプロダクトを作る仕事で、PMとデザイナー、3人のエンジニアと一緒にやっています。

株式報酬の専門的な知識やオペレーションのフローを彼らにインプットするのが主な役割ですが、細かい仕様やデザインにまで口を挟ませてもらっています。SaaSを通じて、“神”エクセルやスプシ管理からの脱却、事務局と社員間のコミュニケーションの円滑化、社員へのストックオプションの経済的価値の可視化、などを目指しています。

最近スタートアップ向けにデモを開始したのですが、担当者の方から「すぐに使いたいから1日も早くリリースして」といった嬉しい声もいただいています。

2つ目が設計に関することです。

株式報酬のベストプラクティスや活用ノウハウの共有を通じて、国内スタートアップの株式報酬レベルの底上げを目指しています。

先月、税制適格ストックオプションの雛型キットである『KIQS(キックス)』をリリースしましたが、退職時やM&A時の取り扱い、べスティング条件の考え方など、今のスタートアップを取り巻く環境に合わせた新しい設計を提案させていただきました。初日だけで300件ほどダウンロードされ、好評です。

ほかにも、『Stock Journal』というオウンドメディアを通じて株式報酬に関する問題提起を行ったり、スタートアップCEOによる「リアルな声」を発信しています。

最後の3つ目がロビー活動に関するものです。

SaaSでオペレーションが楽になり、スタートアップや社員のリテラシーが爆上がりしても、拠り所となる国のルールがボトルネックとなって株式報酬の魅力が半減しては意味がありません。

先日「スタートアップ育成5ヶ年計画」の具体的なロードマップが発表されましたが、その中で税制適格ストックオプションの行使期間の延長や保管委託要件の見直しなどが織り込まれました。

そのすべてが実現するよう、宮田さんとタッグを組んで、自民党のスタートアップ小委員会に出席したり、経産省・内閣府との情報交換を進めています。

――最後にひとこと

作りたい機能がたくさんありすぎてエンジニアが足りません。ストックオプションや株式報酬という言葉にビビっときたエンジニアの方、一緒にNstockを作りませんか?

Nstock採用情報

今回のインタビューに応じてくださったNstock野瀬さんと一緒にプロダクトを開発してくれるエンジニアさんを募集しています。採用情報はこちら!

顔出ししないんですか?

――しません♥

(企画・編集:宮田 昇始 / 取材:上野 智 / 撮影:岡戸 雅樹/ 絵:上谷 真之)

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