コンサルティング・ファームでの経験、そしてディー・エヌ・エー(DeNA)での人事から新規事業の立ち上げ、コーポレート責任者までの経験を経て、シニフィアンを共同創業した小林賢治さん。シニフィアンでは投資家としてSmartHRを支援してきた小林さんですが、シニフィアンでの活動に加え、昨年10月からはNstockにも参画しています。その背景には小林さんが以前から抱えていた課題でもある「日本企業の株式報酬」が大きく関わっていたと言います。小林さんがNstockで目指す世界を伺います。
コンサルからDeNAへ、南場さんの「このアイデア、あなたがやれば?」が後押しに
──まずは自己紹介をお願いします。小林さんはどんなキャリアをたどってきたのでしょうか。
もともと大学時代は、美学芸術学という分野の研究者になろうと思っていました。しかし、端的にいうと「研究者に向いてない」ということがわかり(笑)、キャリアをピボットして、就活をすることにしました。
当時は社会のことを何もわかっていなかったので、業種などは絞らず、「ビビっとくる会社」に行こうとだけ思ったんです。そこでまさにビビっときたのが、最初に就職することになるコーポレート・ディレクション(コンサルティング・ファーム)でした。
何人も起業家を生み出している会社で、そのような環境が性に合ったのか、コンサルタントとしては順調に成長したんですよね。そこで2年目に出会ったのが、DeNA創業者の南場さんでした。通常はコンサルタントがクライアントに提案を持っていき、そのプロジェクトをやるかやらないかという判断をするのですが、南場さんが「面接をしたい」とおっしゃってきて。普通じゃないですよね(笑)。おもしろそうな予感がしたので面接に行ってみたところ、「あなたおもしろそうね、すぐに来て常駐できますか?」と言われ、仕事を受けることになりました。
──それですぐにDeNAに転職をしたんですか。
いえ、すぐには転職していません。当時の仕事は新規事業の検討だったのですが、結局途中で止める決断をしました。南場さんはそのときの決断っぷりを気に入ってくださり、DeNAにお誘いいただきましたが、そのときはまだコンサル2年目だったため、お断りしました。その後何年かキープインタッチの関係性が続き、2008年ごろ、組織のテコ入れをしてほしい、という依頼をあらためていただきました。
プロジェクトを進めるなかで、これは良いアイデアだけど実行が難しい、という案に辿り着き、南場さんから「あなたがやればいいじゃない」と背中を押されました。僕も根拠のない自信があり、「チャレンジしたいな」と素直に思い、転職を決意しました。本来コンサルティング・ファームからクライアントへの転職は御法度なのですが、会社に正直にお話し、代表にも理解いただいたうえで、DeNAに転職しました。
「これを知っていたらうまくできた」を、外で活かすため起業へ
当時は、それまで順調だったモバゲーが踊り場に入り、成長が止まって組織の雰囲気が悪くなっていたタイミングでした。DeNAでは組織のテコ入れが最初の仕事で、入社当時の肩書は「HR本部長」、つまり僕の事業会社の最初のキャリアは人事だったんです。
入社して半年たったころから、モバイルゲームの事業展開がうまくいき、DeNAは『怪盗ロワイヤル』をはじめとしたゲーム事業で快進撃を続けます。
実は僕、大学院時代にゲームにハマりすぎて留年したことがあるんです。そんな経緯もあり、南場さんから今度は「ゲーム部門を引き継いでほしい」と言われました。DeNAのキャリアとしては、ゲーム事業部を見ていた期間が一番長かったんです。責任者になってから幸運にもヒットに恵まれ、業績も順調に伸びたことから、取締役に選任いただきました。ただ、その間には公取の問題や、いわゆる「コンプガチャ」問題などに対するインシデント対応もありましたが...…。
ここからコーポレート部門に異動し、横浜スタジアムの買収、任天堂との提携、IR活動全般など、さまざまな業務に携わりました。HRからはじまり、事業部門、コーポレート部門と、いろいろなポジションで会社を見てきて、ぐーんと伸びたときも、停滞したときも、路頭に迷いそうになるときも経験しました。その経験を経て、「知っていたらもっとうまく備えられた」「あれは少なくとも避けられた」と思うことが増えてきたんです。この経験を外に出て活かすべきだと。
アメリカはシリアル・アントレプレナーが多くいて、彼ら/彼女らは最初の起業をする人よりも成功率が高いと言われています。しかし、日本ではシリアル・アントレプレナーはまだまだ非常に少ない。また、大きな規模の会社を経営した経験のある経営人材も不足しています。業界を盛り上げるために、スタートアップの継続的成長、特に上場後も伸び続けるサポートがしたいと思い、DeNAを卒業し、シニフィアンを創業しました。
「スタートアップエコシステムの強化」が目的、そのためなら手段はいとわない
──シニフィアンはどのような思いで創業されたのでしょうか?
シニフィアンは朝倉祐介、村上誠典と僕の三人で立ち上げた会社です。当初シニフィアンでは「スタートアップの上場後の支援」みたいなことを考えていたんですが、それだけだとなかなか大きなインパクトが出せないと感じるようになりました。
日本では、新しい産業になる企業がここ数十年も生まれていません。この10年のスタートアップの雄であるメルカリですら、現在は時価総額1兆円には届いていないのです。一方でAppleは280兆円、テスラは50兆円です。中国でも時価総額10兆円以上の企業が複数あります。日本で安定的に時価総額1兆円を超えているIT企業としてエムスリーやヤフーなどもありますが、ベンチャーキャピタルに支援を受けた企業ではありません。
世の中ではユニコーンがよく取り沙汰されますが、ユニコーンになったとしても時価総額は1,000億円強しかなく、産業全体から見ると大きな規模ではありません。日本のスタートアップはまだまだ存在感は小さく、ユニコーンをステップに、さらにその次のステップに進めるよう、上場前からしっかり準備できるようサポートすることを考え、最終的にシニフィアンでは「THE FUND」というグロースファンド(上場後の成長を支える投資ファンド)を始めました。
THE FUNDはおかげさまでそのコンセプトに高い評価をいただき、SmartHRをはじめとした素晴らしい投資先にも恵まれました。実際、THE FUNDが立ち上がった後に、グロースファンドの大ブームも起きました。そんな状況だったので、多くの方から「次のファンドは作らないのか」と聞かれました。
普通のファンド業だと、1つのファンドのお金を使い終わる手前ごろには次のファンドを組成するのですが、シニフィアンを起業した目的は「ファンドビジネスをやりたい」というものではなく、「スタートアップエコシステムより強くしたい」という目的から。そしてそのためには上場前後から支援をして、上場後も成長させることが大切、つまりファンドはいわば「手段」です。
なので極論を言えば、目的のためには全員が成長企業の社外取締役をやるとか、全員が起業するといったことも選択肢に入れていました。検討した結果、シニフィアンとしてもう一度グロースファンドをやるよりは、それぞれの方向性を考えてみようとなりました。当然1号ファンドは継続的に運用し、投資先へのサポートは引き続き行っていきますが、次号ファンドがない分、空いたリソースで並行して何をしようかと考えたとき、テーマとして浮かんできたのが「株式報酬」でした。
株式報酬は「従業員への還元」と「ガバナンス」のため
──どうして「株式報酬」が大事なんでしょうか。
会社が成功したときに、フィナンシャルなリターンを得て欲しいというのはすごく大事なことですが、日本はそこの設計がいい加減すぎるなとずっと思っていました。「フィナンシャルなリターン」というと、経営者の話になりがちです。もちろんそれも大事ですが、今一番足りていないのは従業員へのリターンです。リスクを取ってスタートアップにジョインした人ですね。今は初期にリスクを取った、創業初期に入った人に寄りすぎているんです。
実はアメリカでは、ストックオプション(SO)を全体の株式の20%程度配っているケースも少なくありません(編集注:日本のスタートアップでは10%程度が一般的)。何なら、創業者が持つ株式より従業員SOの方が多いこともあります。
上場によってどのぐらいの規模の富が創出されているかを知ろうと思い、2021年に上場したすべての企業のIの部をチェックし、経営者や従業員、エンジェル投資家などの個人の株式やSOによってどのぐらいのキャピタルゲインが生まれているかを分析しました。
それによると、日本のマザーズ市場(当時)の2021年上場企業のデータを分析したんですが、時価総額のうち経営陣・従業員・エンジェルなど個人保有の割合が8,500億円、SOの含み益分が930億円でした。全社の顕在株による価値は、時価総額全体の53.1%分にあたり、そのうち経営者が37%、株式保有上位2〜4位で12.4%を締めていました。それ以外の従業員(含、従業員持株会)の保有数は3.7%です。
これ以外に、潜在株としてSOの含み益を含めても9%強でした。この数字がフェアに見えるのかという話です。もう少しこれをスムーズにできないかと考えました。そういったフィナンシャルリターンの観点で変えられることがあるのではないかと思っています。
出所:各社Iの部、96utデータをもとに、Nstock株式会社分析
(算出根拠:(1)〜(4)の株式数はIの部に記載の数値を採用。(1)については経営者が議決権の半数以上を有する企業の保有分も含める。SOの株数はIの部に記載の数値。含み益は、行使価額を公開価格の半分と想定し、「直近株価 ー 行使価額」で計算)
株式報酬に加えて、僕は「コーポレート・ガバナンス」をライフテーマとして研究しています。ガバナンスというと「悪いことするな」「間違えるな」みたいな「マイナスを防ぐ」話になりがちですが、それはガバナンスのある一側面しか見ていません。実際には、「継続的にリスクを取れるような仕組みを整える」というのが一番重要なポイントだと私は考えています。
ガバナンスが整っていないというのは、「車にブレーキがない」状態。いつでもブレーキを踏めるからこそ、常にアクセルを踏んでリスクを取れるのです。ですが、スタートアップにはその意思決定の仕組みがまだ整っていません。「間違いを防ぐ」ことが目的だと、究極的には「何もしない」ことが正解になってしまいますが、何度もリスクを取れるようにするために仕組みを整え、継続的に大きい勝負をすることこそ、スタートアップに重要です。そして、従業員と会社の考える方向性を一致させるために大事な役割を果たすのが、株式報酬だと思っています。
日本のほとんどの会社は、株価の上昇と自分の給与が全然連動していません。なので、「株価がどうなったって、知ったことじゃない」というのが従業員の感覚なんです。そうすると、株主とも対立構造になりやすいのです。これはよくない構造だと思っています。「株価が上がったら私もハッピー、だから仕事を頑張る」と従業員がシンプルに考えられるようになってほしい。今の日本企業の構造は、ガバナンスの面でも無理があると思っています。そして、その潤滑油になり得るのが実は株式報酬ではないかと。
このテーマで何かできないか考えているなかで、まさに昨年、宮田さんがNstockを作りました。宮田さんは投資先(SmartHR)の創業者でもありますが、同社は本当にすごい会社だなとずっと思っていました。「この人と一緒に働いたらものすごくおもしろいんじゃないか」という思いと、「ずっともやもやしていた株式報酬の課題がなんとかなるかも」という思いが重なりました。ここでNstockの事業に絡まないと、一生後悔すると思ったんです。
岸田政権もスタートアップの成長支援を大きなテーマの一つに掲げていて、すごく喜ばしいことだと思います。一方で、スタートアップには法律や規制などの「官」の問題以前に、業界習慣などいわゆる「民」の問題も少なからずあります。その民の問題を変えていくには旗振り役がどうしても必要で、それには非常に高い熱量が必要です。しかしながら、人生をかけて変えようと思う人はそうそう出てきません。現状のままだと、日本の株式はずっとガラパゴス化したままです。まさに今、宮田さんのような人が変えていこうとしているのは大きなチャンスなんです。
「人」に掛ける企業を増やす、最大の切り札
──経営者が市場と向き合う際、株式報酬はどんな役割を担うのでしょうか。
経営者は「商品・財市場」「資本市場」「労働市場」の3つの市場で戦っています。商品・財であるプロダクトやサービス、資本市場についてはほとんどの経営者が意識していると思いますが、労働市場について、「採用した人たちに活躍してもらって、どう豊かになってもらうか」まで考えている人はまだまだ多いとは言えません。
前職のDeNAでは、退職後に起業したり、スタートアップで重要なポジションで活躍する人がたくさんいます。ミラティブの赤川さんはDeNAで一緒に働いていましたし、最近上場したベースフードの橋本さんもDeNA出身です。あと、メルカリのコアメンバーにもDeNA出身者がたくさんいます。DeNA出身者がいないとスタートアップ業界全体が困るくらい。
なぜそうなったかというと、DeNA経営陣の「人を集めること」への本気度が尋常じゃなかったからだと思います。DeNAに匹敵するほどの熱量で人を集める会社はまだまだ多くありません。DeNAの強さの理由は、プロダクトやサービスと同じぐらい熱い思いを「人」に掛けていることにあります。そしてもう1つの理由は、「給料を出せる」ということです。
DeNAは優秀な社員に業界トップクラスの報酬を出していました。ですが、そんなことができるスタートアップは限られています。そうなると、スタートアップができる最大のアクションはやっぱりSO、つまり株式報酬になるわけです。
プロダクトと同じくらい、SO設計にこだわる経営者が増えてほしい
しかし、経営者に自社の株式報酬の詳細を聞くと、「よくわからない」という答えが返ってくることがままあります。プロダクトだったらボタンの色一つにまでこだわっても、SOの設計はCFOや弁護士事務所に任せっきりということも多い。最大の武器を丸投げするなんてもったいないことこの上ないです。
たとえば、ベスティングの開始をどのタイミングにするか。日本ではIPO日を開始日とするケースが非常に多いですが、税制適格で定められた行使期間の上限である10年のSOが日本では大半であるために、上場を急ぐ理由ができてしまいます。上場に10年以上かかると初期のSOが失効してしまうため、従業員に説明がつかなくなってしまうのです。
一見細かく見えることなんですが、投資契約と同じように、後に大きな影響を及ぼす内容が含まれているんです。場合によっては上場後にも影響しかねません。スタートアップの成長にとって大きな影響をもつものという意味で、株式報酬に関する業界全体のリテラシーを上げないといけないと思っています。
SOの制度を入れた後にどうなるかというのは、数年後になってはじめて分かるんです。SOに関して何度か経験したことのある企業、たとえばメルカリだと分かる人がいると思いますが、少なくとも”1周目”の経営者にも、経験の浅い弁護士にも、「この制度を入れたらこういうことが起きる」ということまでは勘が働きません。
僕はDeNA時代に何度も株式報酬を設計したり、もらったりしました。ですが、設計して数年たってから、まったくありがたがられない報酬設計だったとわかることが実際にあるんです。ちゃんとしたコンサルタントに依頼してもそういうことが起きる。つまり、経営の肌感とずれている。僕はそこを繋げたいなと思うんです。
スタートアップの報酬設計については、本来VCが知見を与えるべきところかもしれませんが、残念ながら現状ではそういうことがなかなか起きていません。PEファンドは報酬に関するこだわりが強く、熱心に研究している。彼らは「経営陣が何をしたらどうリターンが得られるか」を細かく設計しています。その内容によって新しく人を誘い、そのとおりに動いてもらうよう、こだわって報酬を設計しています。
残念ながら、日本のスタートアップ業界ではそこまでSOや報酬は研究されていないと思います。スタートアップが発展するために、どういう思想を持ったSOを、どのタイミングで、どのぐらいの量、誰に配るかというのを議論できる下地を整えないといけない。そういう背景があり、NstockではSaaSや「KIQS」という税制適格SOのひな形を作っているのです。
「人が大事」と思うVCこそ、SOに前向きになってほしい
── 投資家は、自分たちの出資比率が希薄化するため、SOに対して否定的だったりするのでしょうか。
日本の投資家はあまりSO発行に積極的ではない、と思います。ちなみにアメリカでは、VCがSOのプール(オプションプール)設計を積極的にさせます。VCにとってSOがいかに採用上重要な武器かを理解しており、それなしでは採用がままならないことを理解しているからです。また、オプションプールは多くの場合、資金調達時のプレマネーから設定されますが、プレマネーの場合、新規投資家は希薄化しないことになります。そのため、新規投資家は積極的にオプションプールを出させようと起業家側に働きかけます。
そんなアメリカのような習慣が日本にはありません。日本は新規投資家含めた全員で希薄化して仲間を連れてくることになるので、全員が希薄化の影響を受けます。なので、「もっとSOを出さないとだめだ!」と訴えかける存在がいないのです。
岸田政権のスタートアップ育成5カ年計画の中には「米国型オプションプールの検討」という項目もあり、若干風向きは変わってきています。商習慣上も法整備上も日米では違いがあり、急には変わらないかもしれませんが、最近は日本のVCもSOに前向きなケースが増えてきています。
これに関して、取材に同席していた宮田さんも続けて語ります。
VCの方って、起業家と役員まではすごく親身なのですが、その先の社員のことには無頓着なことが多いと感じます。これは彼ら/彼女らが悪いということではなく、単純に社員との接点が少ないからだと思います。投資先の会社や創業者、役員の成功までは彼ら/彼女らも強い責任感を持ってくれていますが、その先の社員の成功までは仕組み上どうしても責任感が薄くなってしまう。
その一方で、スタートアップのボトルネックはみんな絶対に「人」と言うんですよね。「人」って、一つは起業家という意味ですが、もう一つは会社を急成長させる優秀な人材かなと思います。大企業にもそのような人がたくさんいて、アメリカならそういう人たちが新産業に移ってきますが、日本はそういうケースはまだ少ないのです。
──小林さんはDeNA時代に「人」による変化を感じたことはありましたか。
DeNA が大きく成長したときは、やっぱり人の質がすごく変わったと感じたときでした。
一時期、外資系消費財メーカーやグローバル電機メーカーなど、誰でも知っているような大企業から中途採用でたくさん入社されたんですが、みなさんめちゃくちゃ優秀でした。大企業の持つ人材のパワーってすごいなと感じました。スタートアップ全体をみると、まだまだこういった人たちが来ているとは思っていません。
彼らのような人がスタートアップに来るときに、給料を下げてまで来るような人はとてもまれです。そういう人にきちんと経済的な条件や、うまくいった際のリターンを設計することがスタートアップ全体にも必要です。
まず議論を生むことが第一歩、次はNstockの戦略を磨いていく
──先ほどKIQSの話が出ましたが、KIQSを公開した意図について教えてください。
2月にKIQSの勉強会をやるので、それがモデルケースになると思うんですが──SOや株式報酬というのは、管理部門に投げて任せておけばOKという話ではなく、経営マターだと思っています。これを認識してもらうのは、結構なカロリーがかかることです。
VCに事業計画を話すときに、経営者が絶対説明しますよね。株式報酬の設計もそれと同じぐらい気合を入れて話すべき内容である、ということを意識してもらいたいんです。もちろん勉強会だけで急に効果が出るというわけじゃないんですが、たとえば「J-KISS(スタートアップ投資契約の雛形)」ができたことによって、みんなの投資契約に関するリテラシーも感度も上がったように、KIQSもまさにそういう意味でのきっかけの一つになったらいいなと思っています。それをもとに、1年ぐらいかけて業界全体の株式報酬に対する感度を上げていきたいです。
──KIQSに否定的な経営者もいるのではないでしょうか。たとえば、退職後のSO権利行使などは、スピードを求めるスタートアップに合うのでしょうか。
そもそも、議論になった時点で大成功だと思います。つまりそれは「論点になるぐらい重要」ということなので。たとえば、退職後にSOの権利行使ができなくなるとした場合に何が起きるのか。「そのときのメリットとデメリットを、経営陣は意識したことがありますか?」という論点ができますよね。みんなが「これは注目すべきポイントだったんだ」という認識になればいいんです。
最近だと優先株について、優先分配の倍率や参加型/非参加型のどちらにするかといった点が論点になりますが、昔の起業家はそんなこともよくわかっていませんでした。今は論点として認識したからこそ「自分はこっちにする」と言えるようになった。だから退職後のSO行使についても、「創業期に入社した人が行使できないのはきつすぎるから、時期によって変えるルールにしては?」という議論もできるようになっていくと思います。
──これから小林さんが、Nstockで取り組むことについて教えてください。
まずはNstockの戦略を磨いていきます。先日採用資料でもかなりつまびらかにしたんですが、Nstockはどうしても地味なことをやる会社に見えがちなんです。でも本当は、「一見地味だけれども、やろうとしていることはとても大きい会社」なんです。
僕は今までの経験を生かして、重要な意思決定のときに正しい方向にみんなで向かえるよう、サポートしていきます。そのためにできるだけメンバーとの接点を増やし、リスペクトを持って議論できるようにしていきたいです。
事業としては、まずは株式報酬に関するコーポレート向けのSaaSを作りながら、同時にFintech事業を展開していきます。2つの事業は一見無関係にみえるんですが、それがどうリンクしていくのか──この戦略の幹をしっかり強くしていきたいと思っています。
【予告】
2/1(水)に開催する『VCが投資先に"KIQSつかってSO発行していいですか?"と聞かれても困らなくなる勉強会』につきましては、後日レポートを公開いたします。