ただの紙くずになった、もらっても価値を感じない――。
世の中に出回っているストックオプション(以下、SO)の話題には、ネガティブなものが散見されます。でもそれは、SO本来の姿ではありません。
会社が成功すると、社員にもまとまったお金が入ってうれしい。会社は事業に貢献した社員にも喜んでもらえてうれしい。そんなふうに会社と社員のwin-winな関係を実現することこそが、SOの本分ではないでしょうか。また、お金の話でもあるので、ポジティブな話が出回りづらいという側面もあります。
こうしたSOのポジティブな側面をよく知っているのが、上場企業アドウェイズの子会社でコアなファンも多い「株式会社おくりバント」会長の高山 洋平さんです。中野のバー「Barスミス」の2階にある同社のオフィスで、高山さんのユニークな人生模様とSOの魅力を、具体的な金額とともに聞きました。
高山 洋平(たかやま・ようへい)株式会社おくりバント 代表取締役会長
日本の経営者。プロ営業師。プロ飲み師。投資用不動産の営業からキャリアをスタート。不動産営業時代は、受話器をガムテープで手に固定されて5年間テレコールに従事。その後、上場後のドサクサに紛れて株式会社アドウェイズに入社。中国語が話せないのに三国志と中国映画の知識のみで上海に駐在し、営業成績を上げ統括部長に昇進する。5年の駐在を経て帰国後、子会社おくりバントの社長に就任。現在は会長。世界の名書「ビジネス書を捨てよ、街へ出よう プロ営業師の仕事術」の著者。また近年ではワールドJポップ専門DJマリアージュとしても活躍している。食べることが大好き。
宮田 昇始(みやた・しょうじ)Nstock 代表取締役CEO
2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年にはシリーズDラウンドで海外投資家などから156億円を調達、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。2022年1月にSmartHRの代表取締役CEOを退任、以降は取締役ファウンダーとして新規事業を担当する。2022年1月にNstock株式会社(SmartHR 100%子会社)を設立。株式報酬のポテンシャルを引き出すメディア「Stock Journal」を運営している。
SO行使でドーンと1,500万円。金欠なのに家も車も買えた奇跡
宮田 昇始(以下、宮田):今回は、アドウェイズ社のSOでキャピタルゲインを得た経験者として、お話を聞かせてください。ぼくは設立当初からおくりバント社のファンなのですが、ご存知ない方のためにおくりバント社の紹介と、高山さんの自己紹介をお願いします。
高山 洋平(以下、高山):アドウェイズの子会社で“尖ったこと専門”の広告会社です。私は会長で、クリエイティブを作るかたわら「プロ飲み師」として毎晩、ひたすら飲んでいます。お酒を飲むことを通して人を知り、人生を見るという修行をしているんです。あっ、外国人が日本語で歌う「ワールドJポップ」というジャンルのDJでもありますね。最近気に入っているのが、このネックレス。友人のアクセサリーデザイナーへの特注品で、4つのUSBがついてるんですよ。会社紹介資料のデータを一応入れているんですけど、使う機会はほぼないです。
宮田:ありがとうございます(笑)。最近はどんな仕事をされましたか。
高山:タモリ倶楽部の『空耳アワー』と掛けた低予算のCM動画を作成し、一部地域では実際にタモリ倶楽部の枠でテレビCMとして放映したり、アーティストDAOKOさんのミュージックビデオを制作したり、企画・脚本はもちろんキャストへのダンスレッスンまで手がけることもあります。会社は今9期目で、社員数4人です。一応11時始業なんですけど……あれ、来ないっすね。
宮田:(笑)。ここから本題に入りたいと思います。高山さんは親会社であるアドウェイズさんからSOをもらわれたんですよね?
高山:はい。たしか2回に分けてもらいました。中国に行ったときに1回、日本に帰ってきて1回。だから2回換金したんだよな。・・・あれ?違ったかな? まあとにかく、2回もらったと思います(笑)。もともと1回だったのを、2回に分けて売ったとかなのかもしれないけど。でも間違いなく、売却は2回ありました。
宮田:とにかく高山さんの記憶の中では2回もらったということですね(笑)。どういう位置付けでもらったんでしょう。入社時なのか、はたまた部長に昇進したタイミングなのか。
高山:1回目は今から15年前、中国に行ったときですね。アドウェイズが中国に会社を作ったというので、駐在で行ったんですよ。SOはそこから2~3年経って、営業部長になったタイミングで付与されました。「なんだこれ」と思いましたね。なんかもらったのはいいけど、よくわかんねえじゃんみたいな。
SOのことは忘れてその後4年くらい中国で働いていたんですけど、5年目になったらさすがに日本が恋しくなって帰ることにしたんですよ。そしたら妻と「帰ったらどこに住む?」とかいう話になるじゃないですか。出来れば中野に憧れていたので中野に住みたいなと思っていて、賃貸借りるのか、家買うのかみたいな。家買うって言ってもお金ないけど、妻が結婚前に貯めていた貯金が500万円くらいあるって聞いてたから「それで家買うつもりなのかな」とか思ってたんですよ。でも蓋を開けてみたら違って、俺の貯金で買う想定だってことがわかって。そんなのねえって! 中野に住めない、やべえ! って焦りました。そしたら2013年頃、急にドーンとSOを行使できることになって。一気に1,500万円くらい入って、貯金を使わなくても大丈夫になりましたよね。
宮田:ちなみに高山さんへのSO付与って、アドウェイズさんが未上場のときでしたか?それとも上場後でしたか?
高山:上場後ですね。たしか2006年の6月に上場だったかな。そもそも上場後に入社しましたから。
宮田:上場後に入社した人たちにも、事業を成長させ株価が上がったときのインセンティブとして配られていたんですね。
高山:そうそう。よく「上場前にSOもらうとすごくいいことがある」とか聞くじゃないですか。だから上場後にくれても意味ねえじゃんとか思ってたら、あったんですよね。ドーンと株価が上がって。
マジか・・・
家、買える!!!
みたいな。すぐ不動産屋に行って、見せてもらった中野の家を即決しましたよね。「あっ、これよさそうだな。これください」って感じで。あまりのスピード感に、不動産屋が「あれでしょうか、現金一括払いでしょうか……?」なんて聞いてきたんですけど、いや、そこは35年ローンの頭金1,000万超のみでと念押ししておきました。
宮田:(笑)。家以外はどうですか?
高山:車も買いました。
僕はずっと三菱のデボネアに乗ってるんですけど、その一番古い型の旧車がほしかったんですよね。デボネアはまだ大学生だった20歳のとき、妻のお父さんが譲ってくれた思い出の車。中国生活を経て日本に帰ってきても、ほかの車に乗るなんて考えられませんでした。あとは家具。新生活だからと気合いを入れてカーテンをウッドブラインドにしたり、アンティークの家具を揃えたりすると100万円くらいはいったのかな。そういうのを全部ひっくるめて、SOで入ったお金を新生活代にあてたんですよね。したら、なくなりました。全部。
宮田:家と車が買えてよかったです(笑)。SOがなかったらいまと全然違う人生になっていた可能性ありましたね。
高山:本当にそうです。家なんてとても買えなかったですし、買えたとしても中野では無理だったかもしれないし。でも、中国にいたとき移動は100%タクシーだったから、電車に乗って出社できない体になってたんですよ。だからなんとしても、会社のある新宿から近い中野に家を買いたかった。それを叶えてくれたのがSOだったんです。急にもらった大きなお金だったから、正直ビビりましたよね。それが9年半くらい前、2013年から2014年頃のことでした。
貯金の使い込みがバレて大ピンチ。未曾有の離婚危機をSOが救う?!
宮田:2回目の売却はどんな感じでしたか。
高山:2回目の売却は、ちょうどおくりバントを始めた頃のことでした。中国から帰ってきて家買って、車があって。そんな順風満帆なときに子会社の社長をやることになったんです。
だけど、経営とか、もうまったくわからなさすぎて。たとえば資本金ってありますよね。俺、あれは会社を作る準備金だと思ってたんですよ。「1000万円使っていろいろ準備しなさいよ」ってことだと思って戦国時代みたいな本陣オフィスや設備に使ってたら、あっという間に300万円くらいかかっちゃってましたよね。アドウェイズ社長の岡村さんには、バカほど怒られました。
そこからは本当にお金がなかったです。売上は上げてたんですけど、それを超えるぐらい原価使ってたりとかして。なんで潰れずにもってたかっていうと、俺の給料は会社が貸してくれてたんですね。これに関しては親の金なんで、余裕ができたときに払えばいいものだと思ってた。
でもあるとき、ちゃんと返済期限があるって知ったんです。しかも無条件で3日後までに700万円支払わないと会社が潰れるみたいな、超緊急事態。「子供が困ってんだから無期限で貸してくれてるだろう」みたいなテンションだったのに、ビックリですよ。いろんなところからお金をかき集めて、なんとか急場をしのぎましたけどね。
だけどそれぐらいお金がなくて、創業から5年間くらいは最強の自転車操業だったんですよね、毎月毎月。そうなると何が困るって、飲みに行けないこと。プロ飲み師として「飲むことによって人を知る」という日々の修行を怠るわけにはいかないじゃないですか。それに真面目な話、飲みの席で出会ったクリエイターと今もいっしょに仕事していたりするから、本当に大事なことなんですよ。そこで気づいたわけです。
妻の貯金500万円、あるじゃん!
って。家買うときに使わなかったから、残ってたんですよね。だからいいかと思って、飲み代に使っちゃったんですよ。月20万円くらいは飲み代に使ってましたから、2年間くらいで全部なくなっちゃった。でも、ふとしたときにそれが妻にバレて「なんでないの」って話になったんです。
宮田:そりゃそうですよね(笑)。
高山:妻は本当にもう離婚、さすがにガマンできない、ってめちゃくちゃブチギレて。本当にどうしようってときに、またSOですよ。行使して売却するとちょうど使い込んだのと同じ500万円くらいが手に入って、危機を救ってくれたんですよね。
1回目は家を買うっていう、新生活のポジティブな変化を後押ししてくれた。2回目は離婚危機でヤバいときにバーンときて、ディフェンスをしてくれた。まさに奇跡ですよね。攻撃も防御もできる救世主。これがSOですよね。もうSOには足を向けて寝られません。
上場後に入社してもチャンスがある。SOにもっと期待して、うまみを実感してほしい
宮田:ちなみに社長の西久保さんは、当時を近くで見ていていかがでしたか?
西久保 剛(にしくぼ・つよし)
株式会社おくりバント 代表取締役社長。日本の経営者。2006年アドウェイズに入社。著書なし。食べることが大好き。
西久保:SOが身近になってから、アドウェイズのみんな手元に金がある状態になりましたよね。僕もちょっとだけ、ほんのちょっとだけお金もちになれました。「金がない、金がない」ばかりだった流れが変わったのかな。SOに注目してるといいことがあるんだって、会社のみんなが気がつきはじめたんだと思います。株や投資に興味を持つ人も増えたりしてね。
SOって、成長過程の会社に入る大きなメリットのひとつじゃないですか。SOで潤った同僚がいたら「SOって本当にお金もちになれるんだ」って、知る人も増える。SOだけでなく株にも興味が出て資産運用のリテラシーも上がると思うんです。会社の成長に貢献すれば自分の生活も潤うから、仕事のモチベーションも上がりますよね。「SOって実在するんだ」っていう、実感が大事だと思うんです。次世代にそれを伝えてSOに期待してもらって、株価を上げるためにがんばろうと思うきっかけにしてほしいと思います。
それにまだ規模が小さい会社って、自分と周辺の人の力でもっと大きくなれるし、数字って残せる。気持ち次第でしょう。それなら絶対がんばったほうがいい。「うちの会社なんて大したことない」とか、あんまりうがった見方をせずにね。
高山:上場後に入社してもチャンスがあるって、改めてすごいよね。僕らが超運良くお金を手にできたように、若い社員たちもSOをもらって成長していけるといいと思う。ヤバくなったらSOが助けてくれるんだから。そのためにも、もっとたくさんのSOを配れるような会社になっていけばいいなって。
あと俺、実はSOだけじゃないんですよ。アドウェイズの持株会の株を売って、家のローンをちょっとだけ繰り上げ返済できたり。結婚前にたまたま30万円くらいで買ったとある株が10倍の300万円になって、それで結婚式を挙げられたり。SOや株って悪いイメージを持たれがちだけど、俺は全然そんなことないと思うんですよ。良いことあったので。
さいごに
宮田:本日はお金というなかなか話しづらい話題を、オープンに話してもらいありがとうございました。途中から西久保さんもありがとうございます。
お2人とも、SOの価値を感じてご自身の人生を良くしているだけでなく、若い世代にもSOの価値を感じて欲しいとおっしゃっているのが印象的でした。
高山:それは本当にそう思ってるんですよ。世の中、俺みたいなSOの制度とかよくわからないけど、たまたま入った会社で自分なりに頑張ったら、ご褒美にSOもらって、それが運よく高く売れて、助かったみたいな感じでもいいんじゃないかなって。借金返したり、自分の欲しいもの買ったり遊びに行ったりでも人生上向けば、ハッピーじゃないですか。……あれ、売り残しってまだあったかな? ちょっと見てみよう(笑)。
(制作協力:株式会社Tokyo Edit/撮影:高木 成和)