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累計5.8億円以上の調達をした注目スタートアップの起業家が消費者金融に駆け込んだ、その驚きの理由とは……?

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  • CEO
  • 高柳 慎也

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累計5.8億円以上の調達をした注目スタートアップの起業家が消費者金融に駆け込んだ、その驚きの理由とは……?

消費者金融に向かう様子の写真とともに「信託型SO(ストックオプション)を発行する創業者に計画性がなかった場合におこる発行数日前のリアル」というツイートが話題になった株式会社207高柳慎也氏。ツイートには「リアルだ」「超絶鬼わかる」「いやマジでこれ起こりうるよ……」など、多くのスタートアップ経営者たちから共感する声が寄せられていました。

累計で5.8億円もの資金調達を実施した注目のスタートアップでありながら、その創業者が消費者金融で借り入れを行う姿に驚いた方も少なくないのでは。なぜ、高柳氏は信託型ストックオプションを発行する際に借り入れを行ったのか。詳しく聞いてみました。聞き手はNstock社 CEOの宮田です。

高柳 慎也
207株式会社 代表取締役CEO
1989年生まれ。山口大学を卒業後、福岡のベンチャー企業に入社し訪問営業を経験。4ヶ月で退職後、京都にて同事業を起業。2012年に上京し、設立半年の、ITベンチャーに2人目の社員として入社し、WEBシステムやアプリの受諾開発ディレクションを経験。 2015年に株式会社チャプターエイト創業と同時に参画。システムおよび事業の開発責任者として4つのプロダクト開発を推進。ABCチェックインという民泊チェックインサービスの事業売却を経て退職。 2018年に、物流のラストワンマイル領域にフォーカスし、207株式会社を創業。


宮田 昇始
Nstock株式会社 代表取締役CEO
2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年にはシリーズDラウンドで海外投資家などから156億円を調達、ユニコーン企業の仲間入りを果たす。2022年1月にSmartHRの代表取締役CEOを退任し、取締役ファウンダーに就任。同月、Nstock株式会社(SmartHR 100%子会社)を設立。

総額5億円以上の資金調達を行なう注目スタートアップ

宮田:ガレージ付きのオフィスはスタートアップっぽさを感じますね。SmartHRも創業オフィスは渋谷のワンルームマンションだったので、こういう雰囲気は大好きです。はじめに、207の事業概要とミッションについて教えてください。

高柳:207は「いつでもどこでもモノが届く」世界を実現するために、物流のラストワンマイルにフォーカスした事業を展開しています。

荷物を受け取る人がストレスなく荷物を受け取れる「トドク」、配送業者さんの配送業務を支援する「トドクサポーター」や「トドククラウド」、配送業界の人材不足を解消するギグワーカーによる配送サービス「スキマ便」など、複数のサービスを提供しています。

宮田:最初から複数サービスの展開はすごいですね! 高柳さんはどうして物流に興味を持ったんですか?

高柳:僕は学生時代バックパッカーでよく旅をしていたんです。アジアはほぼ全部巡りました。旅をしている3か月ほど家を空けている間は日本で住んでいた家の家賃がかかります。持っている家電や荷物をトランクルームに預けられれば、コストは抑えられますが頻繁に家を引き払うわけにもいかない。漠然とそんな不満をいだいていたなかで、2015年に宅配集サービスの「サマリーポケット」を知り、ジョインして倉庫やUIの改善などを行いました。

ただ、いくらUIの改善を行ってもUXを司るポイントは物流にあることに気が付き、「倉庫業ではなく物流業をやるべきだった」と思い、創業したのが207です。

宮田:バックパッカーをして感じた課題が原体験で、そこからずっと物流一本なんですね。次に207の資金調達について教えてください。2021年に5億円のシリーズAでの調達を行い、それ以前にも2020年に8,000万円のシードの調達をされています。他に調達されたことはあるのですか?

高柳:2020年までは政策金融公庫やみずほ銀行、西武信金などで借り入れを行っています。トータルでは4,000万円ほどでしょうか。受託開発を行っているので、その売上で借り入れが行えた形です。

宮田:なるほど、これまでにエクイティーとデットで累計6.2億円調達されていて、会社としては資金はある程度確保できてきたわけですね。

TechCrunch、IVS LAUNCHPADなど数々のピッチコンテストで優勝する207

信託型ストックオプションを導入、お金が足りず消費者金融へ……

宮田:信託型ストックオプションを導入されていると思います。どんなきっかけで導入を決めたのでしょうか?

高柳:2021年秋口以降から「導入しよう」と動き始めました。事業が軌道に乗ってきて、資金調達も行い、採用力を強化することを考えたら、「他社も信託型ストックオプションを導入しているし、なければ採用力を担保できないのでは?」というのが大きなきっかけです。ただ、信託型ストックオプション、まだ何が正解かは掴みきれていないのが実情です。

宮田:信託型ストックオプションを発行するにあたって、このツイート「信託SOを発行する創業者に計画性がなかった場合に起こる発行数日前のリアル」に至るわけですが……。信託型ストックオプションについてどの程度把握されていたのでしょうか。

高柳:会社が支払うコンサル費用以外に、創業者も「持ち出しとなる費用が必要」とは事前に理解していました。ただ、いくら必要かはきちんと計算していなかったんです。株価やバリエーションによって変わるので「金額をどう準備しようか」と考える前に先に費用が必要になってしまった。実際に必要な費用は100万円ほどでした。

家族や友人にお金を借りたり、持っている株を売るよりも前に「消費者金融で借りた方が早そう」と思ったので、レイクで借り入れをしました。当時、僕自身あまり貯金しておらず、手持ち資金もありませんでしたから。

宮田:不躾な質問ですが……。金額はどれぐらい借りたんでしょうか?

高柳:100万円しないくらいです。金利も15%程度だったかと。詳しく比較などはしていませんので、あまり条件面は気にせず借り入れています。レイクならば、初回の借り入れは60日間利息0円ですしね(笑)。

正直、信託型ストックオプションは正解が分からないし、誰に聞いていいかもわからない。VCに聞いても「詳しい人を紹介するよ」となりますし、正しく導いてくれる方は知り合いにも思い浮かびません。「信託型ストックオプションは評価制度と連動させましょう」というフレームはあっても、実際にどうすればいいのかは評価制度が会社ごとに変わるので難しいと感じています。

ダンボールを実際に用意して荷物の仮説検証を繰り返す

宮田:社員の方々には信託型ストックオプションの説明などはされたのでしょうか?

高柳:説明は評価制度やポイント交付するルールが決まってから2022年の秋口以降に行なう予定です。「このグレードのこの職種の方にはどれぐらいポイントを交付する」という大まかなルールは決めているのですが、細かいルールまではまだこれから詰めるところです。(※ 取材日は7/27)

宮田:ちなみに、ストックオプションは会社の発行済株式総数の10~15%内で設定されることが多いですが、207ではどう決めたのでしょうか?

高柳:最初10%だったのですが、15%に引き上げました。既存株主であるSpiral Innovation Partners Logistics Innovation Fundの岡洋さんが「今後は10%じゃ採用の競争がキツくなるから、15%にしなよ」とアドバイス頂いたのが決め手です。

宮田:すごい! 投資先のスタートアップから「ストックオプションの発行可能上限を10%以上に引き上げたい」と相談を受けても、引き上げることに否定的なVCも多いと聞きます。彼らのビジネスモデルを考えるとそれも仕方ないのですが……。既存株主のVCの人からそう言ってもらえるのはすごく有り難いですね。

ベストプラクティスが分からないのがネック

宮田:信託型ストックオプションを発行するまでの一連の動きを経験されて、制度として課題に感じる部分などはありますでしょうか?

高柳:前提として、弁護士に依頼する「弁護士費用」が数百万円~一千万円と高いのでもうちょっと安くなると嬉しいです。なかなかシードのスタートアップでは手が出ません。もしくは弁護士費用を発行後に後払いにできるとか(笑)。

あと、重複するかもしれませんが……。やはり、発行して配布する際のベストプラクティスが分からないのはネックです。どの企業ではどんな設計にして、どんな配り方をしているのかなどは知りたい。お金が関わる部分だからか業界的にブラックボックスになっていますから、知れると非常に嬉しいですね。

宮田:確かにそうですよね。私から、この場で1つだけアドバイスさせてください。

信託型ストックオプションを導入する際、会社の発行済株式数を1,000万株とかに細かく分割しておいて、それに対応する形でストックオプションも多くの個数を発行しておくことで、あとでなるべく細かく分配できるようにしておくことを強くオススメします。

例えば、発行済株式数があまり多くない状態でその数%に相当するストックオプションを発行するとした場合、ストックオプションの発行数が500個くらいになってしまうケースもありうるかと思います。

信託型ストックオプションは、ざっくり言うと「有償ストックオプションを信託にあずけて、その後に加わるメンバーにもストックオプションを配れる」という仕組みです。そして、この信託設定当初の「500個」というストックオプションの数は後から変えることができません。

となると、配布したい社員の数が50名くらいでとどまればストックオプションは500個でも事足りるかもしれませんが、社員数が1,000名を超えるようなユニコーンスタートアップを目指すのであれば、当初からストックオプションの単位を細かくして10〜20万個くらい数を発行しておいたほうが間違いがないです。

ちなみに、50名で500個だとしても、9個もらう人と10個もらう人のキャピタルゲインの差がとても大きくなってしまうので、もっと細かいほうが実際の貢献に近い状態でフェアに渡せると思います。

高柳:すぐに確認しようと思いました(笑)。

宮田:お役に立てばうれしいです。本日はありがとうございました!

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(企画:宮田 昇始 / 取材・文:上野 智 / 撮影:岡戸 雅樹)

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